2005年12月02日

なぜあなたは幸せなのか、と言われても

 先日の記事に、あざらしサラダさんから、こんなコメントを頂いた。

[前略]
ところで、先日の産経新聞に「所得(世帯全体)をめぐっては年収千五百万円までは所得が上がるにつれて幸福度も上昇したが、千七百万円以上になると逆に低下するという皮肉な結果も出た」という記事が掲載されていましたが、そうであれば、こつこつとまじめに働くことで1500万円までは得られる社会であるべきだと思うし、逆に1700万円以上の収入を得ている方は、社会を良くするために積極的に投資すればいいと思ったりしますが、いかがでしょうか。

 この産経の記事は、何となく記憶している。で、ネットを調べたら、全文あった。

最も幸せな日本人像は 30代、都会暮らし、専業主婦

 なぜ「1500万まで」の次が「1700万以上」なのか、年収1600万の人は一体どうすればいいのだ、と思ってネタ元を検索してみたら、こんな資料があったので読んでみた。

なぜあなたは幸せなのか」(PDF形式)

 引用記事の元となっている部分は、上記PDFファイルの35ページに載っている。だが、その根拠となっている36ページのグラフを見るといろいろと疑問が浮かぶ。
 確かに年収1700万円、1900万円の属性の幸福度は下降傾向だが、2200万円では大きく上昇している。もしこのグラフを直線で回帰するとすれば、明らかに右肩上がりになるだろう。回帰分析(線形回帰でしょう)を使っておきながら、この部分で非線形性を殊更強調するのはちょっと恣意的ではないだろうか。少なくとも、「世帯所得が1500万円以上になると、所得が増えても幸福にならない」という記述は正確ではない。
 それに、横軸に書いてある数値はそのカテゴリに属するサンプル数だろうか? だとしたら、1700万円、1900万円のところの48,34って、他のカテゴリに比べて少なすぎないか。男女の幸福度の差については検定をしているようだが(15ページ)、ここではしていないのだろうか。とりあえず、カテゴリごとのレンジ、標準偏差ぐらいは書いておいて欲しい。と言っても、そもそもグラフの数値が平均値かどうか、書いていないのだが。
 とりあえずこの2つのカテゴリに属するサンプルの特徴をつっこんで調べるべき、というのが、私の所感である。(この部分、回帰分析による属性のコントロールとやらはおそらく為されていまい。)

 まあ、もっと学術的なところに出された論文なり何なりを読めば、もう少し詳しくわかるはずである。私には、単なるプレゼン資料に何やかんやケチをつけてこの調査そのものを貶めようとする意図は、毛頭無い。が、この手の調査結果が新聞やらテレビやらで取り上げられた際には、情報の受け取り手としては少々眉に唾をつけておいた方がいい。

 ・・・と、ここまで書いておいてアレだが、上記あざらしサラダさんのコメントには「そうであれば」とある。つまり、「この産経記事に書いてあることが正しいとしたならば」という仮定の上での問いである。よって、正しい正しくないとは関係なく、問いは問いとして成立している。

 ということで、その問いに答えたいと思うのですが、長くなってきたので、続きは次回、と言うことにさせて頂きたいと思います。

最も幸せな日本人像は 30代、都会暮らし、専業主婦
高齢者ほど「不幸」 阪大教授ら概念数値化

 男性よりも女性、高齢層よりも若年層のほうが幸せを感じているが、所得の高さと幸せは必ずしも比例しない-。大阪大学社会経済学研究所が全国の六千人を対象に行ったアンケートで、日本人の考えるこんな「幸福感」が浮かび上がった。「幸せ」というあいまいな概念を経済学的、社会学的な観点から数値化した極めて珍しい研究結果。調査データをもとに「日本で最も幸せな人物像」も浮かび上がらせており、同研究所では「一部のデータは国民の幸福を追求する政策にも生かせるのでは」としている。さて、あなたは今、幸せですか?
 調査は、同研究所の筒井義郎教授(経済学)らが昨年二月から、無作為に選んだ全国の二十-六十五歳までの六千人を対象に実施。訪問してアンケートを配布、回収する方法で約四千二百人(70・4%)から回答があった。
 アンケートでは、幸福感について、「非常に幸福」を十点、「非常に不幸」を〇点として、「あなたは何点になると思うか」という「幸福度」をたずねた。この結果、五点が最も多く25%。続いて七点が20%、八点が18%、十点も5・5%おり、全体としては幸福と考えている人が多いことが分かった。一方で、四点以下は13%にとどまった。
 この結果を約三十項目にわたって分析したところ、性別では、女性の「幸福度」の平均値が六・五一点に対し、男性は六・二七点で、女性の方がより幸せと考えている人が多かった。
 年齢別では三十代(平均値六・六点)が最も高く、次に二十代(六・四)が続いたが、四十代以降は加齢とともに不幸になり、六十代では六・二点に落ち込んだ。この結果は、海外の大学が行った調査と比べると逆の現象。アメリカやイギリス、ドイツでは三十歳代が最低で加齢とともに幸福度が増しており、若者に甘く高齢者に厳しい日本社会の傾向を表したともいえる。
 職業別では学生(六・九)▽管理職(六・八)▽専門技術職(六・七)▽事務職(六・五)-などの順。主婦も高かったが、専業主婦(六・七)とパート主婦(六・一)で差が開いた。
 学歴では、高学歴になるほど数値が上がっていたが、大学文系卒(六・九)に比べ、大学理系卒(六・八)はやや低く、短大卒とほぼ同じ。サンプル数は少なかったが、小中学校卒(五・七)と大学院修了(七・一)では一・四点の差が出た。一方で、所得(世帯全体)をめぐっては年収千五百万円までは所得が上がるにつれて幸福度も上昇したが、千七百万円以上になると逆に低下するという皮肉な結果も出た。
 居住地域では、政令都市などの大規模都市になるほど上がり、特に近畿と関東が高かった。これは、都市部のほうが高所得者が多いことに加え、利便性なども背景にあるとみられる。ノルウェーでは都市部と田舎での幸福度は変わらないという報告もあるという。
 また、非喫煙者と喫煙者では非喫煙者、ギャンブルをする人としない人では、しない人のほうが幸福度が高かったが、飲酒習慣で比べると大差はなかった。宗教心のある人とない人では、ある人のほうが、他人の生活水準が気になる人と気にならない人では、気にならない人のほうが高いという結果も出た。
 筒井教授は「何をもって『幸せ』と考えるかは人それぞれ。ただ、そうした主観的な幸福感を調べ、経済学に取り入れることで、机上の経済理論が現実社会により近づけるのではないか」と話している。
(産経新聞) - 11月18日3時29分更新
posted by 柏 at 19:22| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。
なるほど、確かにプレゼン資料では2200万円で再び幸福度が上昇していますね。
というか、資料には「世帯所得が1500万円以上になると所得が増えても幸福にならない」とはっきり書いているのに、どうして記事では「年収千五百万円までは所得が上がるにつれて幸福度も上昇したが、千七百万円以上になると逆に低下するという皮肉な結果も出た」になるのか?
このあたりが、いかにも事実だけを伝えているように見せておきながら、記者(新聞社)の主張を盛り込むいつもの手法ということですね。
Posted by あざらしサラダ at 2005年12月04日 22:32
あざらしサラダさん、こんばんは。

図らずも報道批判になってしまいましたが、まあこの件は記者の「意図」が反映されていると言うよりは、単に元ネタにあったセンセーショナルな言葉を無批判にしかもちょっと装飾して載せてしまった、と言うことではないかと思います。
Posted by at 2005年12月05日 23:59
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